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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)16585号 判決

⑤ 事 件

原告

森   優 貴

右訴訟代理人弁護士

増 田 弘 麿

被告

長 尾 妙 子

右訴訟代理人弁護士

小 串 静 夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告は原告に対し、別紙第一物件目録記載の土地につき、松山地方法務局昭和五三年三月一0日受付第一0一八七号条件付所有権移転仮登記、同法務局同日受付第一0一八六号抵当権設定登記、同法務局同日受付第一0一八八号停止条件付賃借権仮登記の各抹消登記手続をせよ。

二被告は原告に対し、別紙第二物件目録記載の建物につき、松山地方法務局昭和五三年三月一0日受付第一0一八七号条件付所有権移転仮登記、同法務局同日受付第一0一八六号抵当権設定登記、同法務局同日受付第一0一八八号停止条件付賃借権仮登記の各抹消登記手続をせよ。

三被告は原告に対し、別紙第三物件目録記載の土地につき、松山地方法務局昭和五三年三月一0日受付第一0一九0号九番所有権仮登記の移転登記の抹消登記手続をせよ。

第二事案の概要

(当事者間に争いない事実)

別紙第一ないし第三物件目録記載の不動産(以下「本件物件」という。)は、もと原告の所有にかかるものであるが、本件物件について被告名義で請求の趣旨のとおりの各登記が経由されている。

(被告の主張)

被告は、原告に対し、昭和五三年二月二0日、四五0万円を弁済期同年一二月末日、利息年一割五分、損害金年三割との約定のもとに貸し渡したが(なお、昭和五三年一二月末頃か昭和五四年一月頃、弁済期を昭和五五年二月末日、損害金日歩八銭と変更した。)、右債務を担保するために請求の趣旨記載のとおりの各登記が経由されたものである。

(原告の主張)

原告が借りたのは三00万円にすぎない。そして、被告は原告に対し、昭和五九年九月二0日、被告が同月一九日原告からの預かり金一二0万円を費消したことによる損害賠償金債権と相殺する旨意思表示した。そこで、原告は被告に対し、昭和六一年五月三0日、残額についての元利金五八七万四二八四円を超える五九三万九一0八円を提供したうえ、同月三一日、弁済供託したから、被担保債権は全額消滅した。

第三争点に対する判断

一消費貸借並びに担保提供について

1  被告は、原告から、原告が他から購入する本件物件の購入代金、登記料及び仲介手数料などの各支払いに要する資金を貸してほしいと依頼を受け、昭和五三年二月二0日、四五0万円を、弁済期は同年一二月末日、利息は年一割五分、遅延損害金は年三割との約定のもとに貸与する旨の契約を締結し、同額を交付したが、その際、原告は被告に対し、本件物件を担保として提供する旨を約し、同年三月一0日受付をもって請求の趣旨記載の各登記を経由したものであり、登記簿上も抵当権の被担保債権額は四五0万円と記載された。

(原告は、借入額は三00万円にすぎない旨供述するが、採用しがたい。)

2  ところで、原告は被告に対し、右借入にあたり、本件物件を昭和五三年一二月末頃までには他へ転売して利益を出すことができるので、四五0万円をその頃までには確実に返済するうえ、転売利益の半分くらいを被告へやると約束したため、被告も貸付を承諾したものである。ところが、原告は右期限頃になっても本件物件を転売することができなかった。

そこで、被告は原告に対し、昭和五四年一月頃何度か返済を要求したが、原告は、一、二年すれば転売できるから、返済を待ってほしい旨依頼したので、被告はこれを了承するとともに、原告から借用証書(〈証拠〉)を徴したが、その際、被告は、原告に代わって右借用証書に弁済期を昭和五五年二月末日、遅延損害金を日歩八銭と記載し、その旨変更することを了解した。なお、貸金額については、原告が、仲介手数料や登記料については被告が五0万円ほど負担すべきであると主張して四00万円と記載するよう求めたため、被告はやむなく四00万円と記載した。そして、原告は、同書面に自ら署名捺印して被告に交付した。

(原告は、乙第一号証に署名していない旨供述するが、同号証の署名と同人が真正に成立したものとして提出した甲第一号証及び同人の代理人に対する本件訴訟委任状の署名との比較対照、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、乙第一号証の署名は、原告本人の筆跡であると認めるのが相当である。)

二被告による預金の費消について

被告は、昭和五九年九月一九日、大東京信用組合に対する原告名義の預金から一二0万円の払い戻しを受けたが、これは、被告が原告に対する今後の協力を拒絶する意向を示したため、原告において、被告の協力を引き続き得るため、土地建物の売買についての仲介や、裁判、児童福祉関係の手続等に関する書類の作成等で被告が協力してくれたことに対する謝礼として、被告が受け取ることを了解したためである。

(この点について、原告は、被告が右払戻金を一方的に本件貸金と相殺する旨述べたと供述するが、もし、被告にそのような意図があったとすれば、被告は昭和五九年三月から九月にかけて原告の依頼で合計で相当多額にのぼる金員を預かったことがあるのであるから、一二0万円に限らずそれらについても同様に取り扱うことができたはずであるにもかかわらず、その形跡はないことに照らしても、原告の右供述は採用できない。)

三供託による被担保債権の消滅の有無

以上のとおりであり、被告は原告に対し、昭和五三年二月二0日貸付の四五0万円に同日以降昭和五五年二月末日までは年一割五分の割合による利息、同年三月一日からは年三割の割合による遅延損害金の債権を有していたものであり、原告が供託をした昭和六一年五月三一日現在においては元金並びに利息及び損害金の合計は一四0八万七二四二円(元金四五0万円、利息二年と一0日〔ただし、うるう年計算〕分計一三六万八四四二円、遅延損害金二二八三日分八二一万八八00円)であったものである。

ところが、原告が供託したのは五九三万九一0八円にすぎないから、右供託によって本件各登記にかかる被担保債権が消滅したということができないことは明らかである。

(裁判官石垣君雄)

別紙<省略>

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